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「かりに、おれが真正面から反抗的に出て、それがために住みにくくなつたとしても、同じことだ」
「いや、人目がなきあそれどころぢや済まんでせう」
義母は明日も片づけ仕事が残つているので泊つて行くことになつた。
房一の魚籠びくをのぞいて、盛子はびつくりしたやうに叫んだ。
診察がすむと、房一は別の客座敷へ案内された。そこには、床柱の前にお寺さんに出すやうな厚ぽつたい綸子りんずの座蒲団だの、虎斑とらふの桑材で出来た煙草盆などが用意されてあつた。都会地では一時間もかゝらないやうな往診が、この田舎では小半日もつぶされてしまふ、そのくどいもてなしの習慣を知り抜いている房一は、無下むげにも断りかねてそのまゝ坐ると、間もなく和服に着換へた相沢が現れ、その後から銚子を持つた夫人が入つて来た。
やつと、徳次は感心した。青島陥落はついこなひだのことで、その時は徳次も提灯ちやうちん行列に出たのである。
「あんたも、おめでたいさうで」
「居なくたつて訴訟はいくらでもできらあね」
「ほゝう!」
「挨拶みたやうなことはもうしたかの」
患者の多くは近在の農夫達であつた。それは大体に於いて、開業以前に予想していた通りだつた。鈍のろい、ゆつくりした口調で声をかけながら、彼等はおづおづと高間医院の玄関を入つて来る。彼等は医者に診てもらふためにわざわざ河原町へ出て来るのではなかつた。農具とか種物とかを買ひに出て、ついでに立寄るのであつた。それで、彼等の病気はすでに治療の時期を失しているか、でなければ手のつけられない慢性のものが多かつた。
後で馬がいないと云ふので騒ぎだつた。
と気のない返事をした。