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瞬間、房一は緊張した。道平が急変したのかと思つた。さうではないらしい。急患だらうか。それだと、こんな風ではなく、もつと低くおろおろした風に云ふ筈だ。彼は手をやめて、耳をすませた。
と訊いた。
坂路にかゝると、房一は自転車から降りて、押しながら登りはじめた。房一の恰好が円まつちく、不器用な図体であるだけに、自転車にとりついた姿はいかにも重たさうに見えた。十月に入つて間もない日は、自転車の金具の上だけでなく、下方の桑畑の透いて見える根つこにも路のわきの削りとつた赤土の肌の上にも一面にふりそゝいでいた。
「はゝあ」
「失礼ですが、もしか、あなたは高間さんではありませんか」
「ほう、さうか。毎年あるのかね。そいぢや、これから度々見られるわけだな」
ふいに、徳次はしたゝかに横頬を殴られるのを感じた。容赦のない力が彼の首すぢをつかまへ、又やられた、一つ、二つ。それは、突然うしろからやつて来た。何だか判らなかつた。そして、抵抗するはずみを失ひ、きよとんとして見上げた。
それで安心したやうに引つこんだが、しばらくすると又のぞいた。
しばらく黙つていた後で、房一は
「それは、小規模な演習だからして居らん」
「いつこちらへお帰りでしたか」
「やっぱりチブスで?」
「うん」